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2006.11.23 (木)

「 警戒せよ、情勢大変化の予兆 」

『週刊新潮』 '06年11月23日号
日本ルネッサンス 第240回
米国議会中間選挙での共和党敗北は、朝鮮半島情勢の大変化と日本
への深刻な衝撃をもたらしかねない。

11月10日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は、ラムズフェルド国防長官の更迭とロバート・ゲイツ新長官任命の意味を、ブッシュ・ドクトリンの終焉だと一言で断じた。ブッシュ・ドクトリンとは、民主主義や自由の価値観は中東を含む世界に根づき、機能していくはずだとの信念に基づく外交である。

選挙でイラク戦争の意義を否定されたブッシュ大統領に対して、間もなくべーカー元国務長官らの構成するイラク問題研究班(ISG)の政策提言書が提出される。べーカー氏は父親ブッシュの時代の国務長官で、第一次イラク戦争の際、フセイン政権の崩壊まであと一歩に迫りながら、最後の止めをイラク軍の“良識と勇気ある将校たち”に任せた。「自らの手でサダムを倒し、イラクを民主化せよ」とイラク軍に呼びかけ、米国は攻撃を中止した。そのシナリオを描いたのがべーカー氏らだった。

当時、べーカー氏の助言者だったのが、スコークロフト国家安全保障担当補佐官、スコークロフト氏を補佐したのが今回、新国防長官となるゲイツ氏だ。ゲイツ氏は彼らの戦術が間違いだったと、05年に認めた。

外交評論家の田久保忠衛氏は、米国の保守勢力を以下のように二分する。

「第一のグループはニクソン、キッシンジャー両氏に代表される現実主義者で、彼らは目的のためには悪魔とも手を握る人々です。ソ連に対抗するために、米国とは価値観を異にする社会主義中国の毛沢東や周恩来と手を結んだように、目的主義、現実主義に徹する人々です。べーカー、ゲイツ両氏もここに入ります。

第二のグループはチェイニー副大統領やラムズフェルド前国防長官で、彼らの下にはネオコンと呼ばれるウォルフォヴィッツ世銀総裁やボルトン米国連大使などがいます。彼らは、目的達成を重視しつつも、そこにモラルやイデオロギーといった価値観を持ち込みます。ですから、核不拡散の立場から、本来の米国なら許容しないであろうインドを、同じ民主主義の国として受け容れるのです」

“部分撤退”への道

第一グループは、ブッシュ大統領のように、アラブ社会に民主主義的政権を創り出そうなどとは考えないということだ。WSJは、ブッシュ外交の特徴は、ブッシュ・ドクトリンと共に、「同盟国を見捨てない」という大統領自身の信念にあると指摘する。ブッシュ大統領は米軍撤退で、民主化を求めるイラク人を見捨てることはしないというわけだ。が、べーカー氏らの提言は、ブッシュ大統領の方針とは異なり、イラクからの撤退を描いたものになると、WSJは分析する。

いま米国では、①全面撤退、②部分撤退、③現状維持、④駐留米軍の増強、の四案が論じられている。

①は下院議長となった民主党のナンシー・ペロシ氏らの主張だ。これはしかし、いまや議会の多数派を占めた責任ある政党としてはとても言い出せない案だ。現に、超リベラルなペロシ氏も、すでに同性愛者同士の結婚に反対し、ブッシュ大統領の弾劾にも反対した。元来の主張を顕著に変えつつあるのだ。恐らく彼女はイラクからの全面撤退論を封印していくだろう。かといって③には誰も首をタテに振らない。④は、共和党の大統領候補にあげられているマケイン上院議員が主張するが、べーカー氏らは②の部分撤退を選ぶとみられている。

WSJは、べーカー氏らがイラクからの撤退を尤もらしい理屈で安易に決定し、イラク国民が選んだシーア派主導の内閣を見捨てるなら、「非情なる現実主義の指導者が君臨するロシア、中国、ナイジェリア、ベネズエラ、ボリビア、パキスタン、エジプト、サウジアラビアなどを含む諸国で、米国が支援してきた民主主義勢力は痕跡残さず潰されていく」と警告する。

ブッシュ大統領がISGの提言を受け取るのは11月第4木曜日の感謝祭のあとである。WSJの指摘するシナリオを米国が採れば、影響はイラク問題にとどまらず日本周辺にも深刻な影を落とす。

具体的には朝鮮半島における中国の動きである。現在中朝国境には8万人の人民解放軍が配備済みだ。脱北者取締りのためとされているが、8万人は国境警備の警察官ではなく、全員が軍人である。中国政府は中朝国境に至る道路を、戦車の走行に耐え得るように拡幅し整備してきた。国境警備には不似合いな戦車や十分すぎる装備も配備した。加えて8万人の軍隊は少なくともここ1年、渡河訓練をはじめ、まるで北朝鮮に攻め入るかのような激しい訓練を重ねている。中国の目的は余りにも明白だ。いざというとき、どの国も介入出来ないほどの短時間で、電光石火の北朝鮮制圧をやってのける態勢を作り、それを維持し続けることだ。

中国のしたたかな計算

彼らが気にするのは国際社会への口実と米国の動きだ。中国はその口実を着々と準備してきた。それが高句麗論争である。高句麗王朝の領土は現在の北朝鮮領土とほぼ重なる。高句麗は、昔々、中国の一地方政府だったのだから、今の北朝鮮も中国の一部だと中国は主張するのだ。

これには韓国も北朝鮮も極めて強く反発しているが、中国は彼らの反発など全く気にしない。中朝国境にある北朝鮮の“霊峰”白頭山を中国は長白山と呼び、中国側から着々と開発を進めつつある。その進め方は傍若無人そのもので、日本固有の領土、尖閣諸島周辺海域の天然ガスなどを、いかに日本が抗議しようが、平然と奪い続けるのと同じである。

中国が準備中のもうひとつの口実は、朝鮮人民軍の分裂と、分裂して生まれる勢力の一派からの支援要請である。北朝鮮の体制崩壊に伴う混乱回避のため、北朝鮮内部から支援を要請されたといえば、国際社会の批判を封じ込むことが出来ると、中国は計算しているのだ。

“国際社会”は米国と同義語と考えてよいだろう。イラクで手をとられたブッシュ政権はただでさえ、北朝鮮問題を中国に任せてきた。選挙で敗れた今後は、尚更、中国頼みになりかねない。

べーカー氏らがイラクからの部分撤退と民主主義などの価値観に囚われない策を提言し、ブッシュ大統領が受け容れれば、中国は安心して北朝鮮に手を出すであろう。

そのとき日本はどうするのか。日本を守るのは、究極的には日本しかない。その事を肝に銘じて、直ちにいま、手を打つべきことが二つある。第一は中国の傍若無人の振舞いは許容しないという政治的姿勢を明らかにすること、第二は日本防衛に厳しい規制をかけている集団的自衛権の現行解釈を破棄し、その行使を可能とすることだ。

 

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